日本は本当に海洋国家なのか?
2025-12-1
我が日本国は周囲を海に囲まれていて海洋国家と言われています(誰が言っている訳ではありませんが、その様に言われているとの認識です)。本当にそうなのでしょうか?この様な疑問を持った事はありませんか? 何故その様な疑問を持つかと言うと、もし日本が本当に海洋国家であるならば、もっと我々の様な外航船に乗って仕事をしている船員の事や海運会社の事を日本の国民がもっと知っていても良い様に思いますが、会員諸兄はどの様にお考えでしょうか?
残念ながら、筆者は現在の日本は「海洋国家では無い」と考えています。その理由は以下の通りです。
1.農耕民族
日本は農耕民族だと思います。この事が「日本が海洋国家になり得ない全て」だと考えています。
これは日本だけに限らず東アジアや東南アジア諸国で稲作を中心とした農耕社会の国々は基本的に海洋国家とはなってはいないと思います。
これは皆さんご存知の様に米を作る為には、定住して様々な作業(田植え、草取り、稲刈り、脱穀等)を地域皆で協力して作業をしなければなりません。所謂、邑(むら)社会を形成しており、この様な生活形態では、とても海に打って出る事など考えられなかったことと思います。
これに対して「海洋国家」と言われる欧米諸国は、土地が痩せていて植物(=食べ物)が十分に取れず、食べ物を補う為に動物を捕獲したり、外(=海)に出て漁をするなど、生業を得て来る事が必要であり、必然的に目が外に向く事になったのだと思います。
(江戸時代の鎖国政策)
我が国が農耕民族を決定的にしたのは、約260年続いた江戸時代の鎖国政策も一因かと思います。外国に行けず、大船も建造する事が出来なかった為、海洋国家としての素地が形成されなかったということです。
もし、江戸時代の鎖国政策が無く、その前の室町時代の倭寇や安土桃山時代に活躍したルソン助左衛門や山田長政の様に東南アジアに出て活躍した時代が続いていれば、日本も海洋国家になっていたかも知れません。
2.漁業が盛ん
日本は農耕民族ではありますが、矢張り周りを海に囲まれているので、魚を取って生業とする職業が生まれたのは自然な成り行きでした。漁船は目の前でいつでも見る事が出来ることから、結果として、遥か昔から「船」と言えば魚を捕る船のイメージが植え付けられた。
3.港と町(一般の人達が住んでいる場所)が遠い
漁港と町は近い。漁師町は港の直ぐ傍に町がある(筆者の田舎の館山もしかり)が、商船が寄港する港は町から遠い。しかしながら、例えば欧米の様に川を遡った所に我々が乗船する船が入出港する港があったり、SingaporeやHong Kongの様に港と町が非常に近かったりと、一般市民が商船(まあ、そうは言っても限られた船種ですが)を目にすることが多くなり、必然的に商船や船乗りを目にする機会が多くなります。
4.子供の頃から海(=船)に親しんでいない
筆者が未だ3/Eの頃に欧州コンテナ船に乗船してBridgeに行った際、当時のCaptainから「欧州はヨットをかき分けて操船するが、日本は漁船の間を縫って操船しなければならないので大変だ」と言っていました。Captainは冗談でおっしゃっているのですが、この比喩は日本が海洋国家では無い上手い表現だと思います。筆者は決して漁業が悪いと言っている訳ではありませんので、くれぐれも誤解のない様にお願いします。
その時Bridgeで見た欧州の海でのヨットにはお父さんとその子供と思しき親子が乗っており、子供たちはお父さんに教わったり、見様見真似で操船を覚えている様でした。その様な光景があちこちに見られました。
この様に欧米では子供の頃から海(=船)に親しんでいる文化があるようですが、日本には中々無い光景だと思います。
それでは、日本は海洋国家になれないのか?残念ながら多分なれないと思います。それは、上記1項で述べた様に日本は農耕民族だからです。但し、現在の日本社会は最早農業国では無くなって来ていますので、海洋国家に成れる可能性はゼロでは無いと思います。ですが、それには日本の文化を含めた国民性を根底から変える必要があり、多分100年単位の年月が必要になると思います。
そうは言いながらも少しでも我々船乗り、特にMarine Engineerの事を広く日本の国民の人達に知って貰えるよう、協会として日々努力をしていますので、会員諸兄もMarine Engineerの認知度を上げる為に一緒に頑張りましょう。
以上