“会長再任に寄せて”

 当協会は、昭和22年9月に任意団体として発足し、昭和27年9月に社団法人として認可されて社団法人日本船舶機関士協会として設立されました。

 設立当時は戦後復興を経て日本経済が急速に発展する時期でした。舶用機関の革新が着々と進められた時代であり、レシプロエンジンからディーゼル機関への転換、低質重油の専焼等、乗船中の機関長士の苦労は並大抵ではなく、機関長士の待遇改善の提言や機関メーカーとの技術交流会及び提案等の活動を当協会の主な活動として諸先輩方が取り進めて来られました。
 その後、自動化船、主機船橋操縦、E-1当直体制、高度合理化船、M-0船、船員制度近代化、混乗船等々船舶に関わる技術革新は目まぐるしいものが有り、それらに適応するべく我々機関長・士は新しい知識と技術への対応に日々精進してきました。また、当会もその一助としての役割を十分果たしてきたと自負しております。
 このように長い伝統・歴史と実績のある日本船舶機関士協会会長に再任され、その重責に身の引き締まる思いですが、正会員並びに賛助会員の皆様の叱咤激励を受けながら当協会の活動の活発化と発展を目指して行きたいと思います。会員始め関係各位の皆様には、引き続き変わらぬご支援・ご協力をお願い申し上げます。

 さて、昨今世界的に地球環境問題が議論されており、わが海運においても様々な規制がなされています。古くはオイルポリューション防止から始まり、エアーポリューション問題(オゾン層破壊物質、NOx、SOx、CO2及びGHG 、PM)及びバラスト水処理問題等は船舶機関士の実務に大きな影響を与えており、また更なる影響を与えようとしています。最近はマイクロプラスチックによる海洋汚染や北極海におけるブラックカーボンも問題化されており、更に船体付着物や船外騒音問題も今後の課題となり世界的に規制が検討されつつあります。
 斯かる状況の中、SOx規制が令和2年1月1日より発行致しました。若干のトラブルはありましたが、大きなものはなく概ね良好に乗り越えられたと思っています。これは公民一体となった綿密で多様にわたる準備や現場の対応能力により達せられたものであり、我々機関長・士の長年に蓄積された経験や知識が如何なく発揮されたものと喜んでおります。

 振り返ってみますと令和2年は新型コロナ禍に全世界が翻弄された年でした。パンデミック宣言が出され全世界に緊急事態宣言、ロックダウンが度重なり、重大な災害をもたらしました。グローバル化した世界では以前と比べ蔓延も早くまた、止める事も容易ではありません。一方、国境、立場を超えた協力もあり、従来考えられていたスピードをはるかに超える速さでワクチンが開発され、投与も始まり今後紆余曲折はありましょうが、遠からず収斂する事を期待するものであります。

 コロナ禍の世界経済の渋滞により、地球温暖化は数値的には若干緩和されたようですが、現状は依然として深刻であり、秋の気候変動サミットに向けCO2の更なる削減の上乗せを各国に求めています。一方、米国の政治リーダーの交代により地球温暖化対応は一転して最重要課題へと舵を切られCO2対策は俄然クローズアップされました。我が海運界は物流が主であり、ものを移動するにはエネルギーの使用が必須です。過去にエネルギーは石炭から石油に移り更に一部導入しているLNG(LPG)へとエネルギーが変換していっており、その後、CO2を排出しない水素、アンモニアやカーボンニュ-トラルなバイオ燃料に移っていく事でしょう。エネルギーの変換は我々機関長・士には根本的な問題であり如何に対応するかにより将来が問われる事でしょう。また、外航海運は、そのグローバルさにより世界中を見据えた対策が必要になります。積極的な情報収集と我々が先輩諸氏より引き継いできた経験と知識を十分発揮すれば対応可能であり、枠を超えた協力のもとそのポテンシャルを今こそ発揮すべきでありましょう。

 一方、新型コロナは導入に二の足を踏んでいた日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)の背中を押し、テレワークやウェブ会議かなり普及しました。数少ない新型コロナの効用の一つといえますが、更に進めていくべきでしょう。
地球温暖化対策を進めていく上で、新しいエネルギー技術に加えこのDX技術を重ね合わせることでより早く確実に効率的に課題を解決していく事が可能でしょう。

 糸は一本だけでは容易に切れてしまいます。経糸と横糸とに織りあった布になれば強度は増し、役に立つようになります。当会も横糸になれるよう今後とも会員及び関係諸氏とも力を合わせていきたいと思います。

当協会の今年度の事業計画として、舶用機関技術等に関する調査研究事業、故障情報活用に関する調査研究事業、舶用機関技術及び船舶機関士の情報発信事業、機関長士の労務問題に関する調査研究事業及び関連業界との協賛事業を昨年度に引き続いての目標として掲げて参りますが、各事業の完遂達成には正会員及び賛助会員の皆様の理解と協力が必須であり、同時に改訂したホームページを活用頂き、各委員会での活発な意見と斬新なアイデア提案を期待致します。

令和3年5月
会 長 掛谷 茂