日本に海事クラスターはあるのか?

2026-2-1

 この自由海論も10回目となりました。数える程ですが、何人かの方々からご意見を戴きました。有り難い事です。この様な場を通じて会員諸兄と意見交換が出来れば最高なことだと思っていますので、皆さんからの忌憚のない話が伺えればと思っています。

 さて、今回は「海事クラスター」についてです。自由海論 #7にて「日本は本当に海洋国家なのか?」とのテーマでお話しましたが、それと似たような話かと思います。

 日本には海運業、造船業、舶用工業等の海事関連産業がありこれらが1つの国に集積している世界に類を見ない海事クラスターを形成していると言われていますが、本当でしょうか?確かに日本の各海事業界の技術や規模は世界でもTop Classです。しかしながら、日本には本当の意味での「海事クラスター」は存在していないと筆者は考えています。
 「(海事)クラスター」とは、あるものの本によれば、“関連する業界が結び付いて、情報や資源の共有が促進され競争力が向上し、経済成長やイノベーションにも寄与する”とあります。

 筆者が日本での海事産業の各業界がその様なクラスターを形成していないと思う事例を下記します。
1.終身雇用制度
 日本の場合、今までは就職すると退職するまで同じ会社(業界)に所属するのが普通でした。従って、自分の会社の事は良く分かりますが、同業他社や他産業の事は外から見ているだけで内部事情は良く分からない、即ち情報や資源が共有され難い状況にある。
2.電子制御機関
 20年程前に電子制御機関が出始めましたが、初号機は日本では無く、欧州のEngine Makerでした(MAN B&WだったかSulzerだったかは忘れましたが)。もし日本に海事クラスターが形成されていたならば、初号機は日本から生まれたのでは?
3.Integratorが不在
 電気推進船で気が付いた事ですが、Motor、Battery、Control System等電気推進船に必要な各機器、装置は日本のMakerも製造出来、品質も高いと思う。しかしながらそれらを1つのSystemとして統合する技術や技術者が不足して、1船の推進Plantを構築出来るResource、所謂Integratorが日本に存在しておらず、ABBやWartsila等の欧州の業者の独断場となってしまっている。日本に海事クラスターがあれば、そうはならなかった?

上記は一例です。会員諸兄は本件に関してどの様に思われるでしょうか?

 この様に日本には世界Top Classの海運会社、造船会社、舶用工業会社があるにも関わらず、それが有機的に結びついていない。と言いますか、今までは個社で十分対応が可能でした。しかしながら時代が変わり、世の中が複雑となって来てとても個社だけでは対応が不可能になって来た時代にも拘わらず、日本人は終身雇用制度も影響していると思いますが、個社で対応しようとして頑張り過ぎてしまい、膨大なMan-Powerを注入して来ました、その結果は皆さんご存じの通りの状況で海事クラスターが形成されず仕舞いとなってしまいました。それどころか生産性が低いとまで言われる状況となってしまいました。

 一方、日本にもそういった現状に気が付いたと言いますか、このままでは日本の海事産業がジリ貧になってしまうとの危機感から業界横断的なProjectも始まっています。
その例として
①7社連合
 海運大手3社(NYK、MOL、K-LINE)と造船4社(今造、MHI、JMU、NSY)が連携してLCO2船の標準船型確立の共同検討を昨年(2025年)開始した。
②東大でのMODE、阪大でのOCEANS 等
 大学に産学が一体となり、海事産業以外からの知見も導入し、海事産業側の海運業、造船業、舶用工業からの協力も仰ぎ、海事産業にInnovationを起こそうとしている。
③修繕Yardが船主業を始めた
 ある修繕専門造船所が船を実際に所有して運航しなければ船の事は分からない、即ち修繕作業を効率良く的確にする事は出来ないとの考えから、造船所にも関わらず、船を所有する事を方針とした。

 このほかにも各業界が他産業と交流を持って色々と関係を構築したり、同じ業界内でも何社かが協力して1社では出来ない事を行おうとしたり試行錯誤をしています。悪い事では無いので積極的にこの様な活動はするべきだと思います。しかしながら根本的には労働の流動性と言いますか、どの業界でも他産業からの人材を受け入れる体制の整備や、どの産業でも活躍出来る様な人材を育成するSystem(学校教育も含め)の構築が必要だと考えます。農耕社会である日本文化を変える事は中々難しいと思いますが、これを乗り越えないと日本には健全な海事クラスターが構築されないと思いますが、会員諸兄はどの様にお考えでしょうか?

以上