「事故原因の7~8割はヒューマンエラー」は本当か?
2026-5-14
先月4/24(金)にUK P&I Club主催の「機関管理-機関事故防止をめざして-」というSeminarで「現場での機関管理(機関事故防止をめざして)」と題して講演をしました。当会のHome Pageにも本件を掲載しましたので、会員の中にはこのSeminarに対面またはOn Lineで参加された方もいらっしゃったかと思います。聴講された方は、筆者の講演の内容をどの様にお聞きになったのでしょうか?色々なご意見があろうかと思います。特に最後の項目であった「4.事故原因の究明」の主張に関しては、異論のある方もいらっしゃるのではないかと思います。30分程度の短い時間という事もあり、思いの全てを聞いている方々に伝える事が出来ていなかったかもしれないと感じている事と、Seminarを聴講されなかった会員の方々もいらっしゃると思いますので、改めて「事故原因の究明」に関して、この「自由海論」にて私見を述べたいと思います。
筆者がこの講演で一番言いたかったことの1つに
「船の事故の原因は、7~8割はヒューマンエラーである」
と言われていますが、本当にそうですか?と言う疑問です。
皆さんはこの言葉をどの様に思われるでしょうか?筆者にはこの言葉は、表現は非常に悪いかとは思いますが「船員は能力が低い」と言っているのに等しい様に感じています。
確かに、事故発生の要因として、乗組員がするべき事をしなかったり、操作ミスをして発生する場合がある事は事実だと思います。船員も人間ですからポカはあります。しかしながら、その事実を以って、事故原因の7~8割がヒューマンエラーと言う事には少々違和感を覚えます。
何故、その様に思うのか、以下にその具体例を記載します(Seminarで使用したものと同様です)。
⚫️(事例1)Aux Boilerの空缶焚き・損傷
Boilerに缶水が入っていないにも関わらず燃焼を継続し、結果として高熱となり、Furnaceが膨出して缶水が漏洩、Boilerが使用不能となった。
(一義的な原因)
①水面計Levelの見誤り
②定期的な緊急遮断装置の作動確認試験の未実施や整備不良
(再発防止対策)
乗組員の過失(計測ミスや定期整備の未実施)として処理され、乗組員への訓練強化や整備頻度を上げる事を再発防止対策とした。
(再発防止対策後の結果)
その後も同じような事故が繰り返し発生した。即ち、上記再発防止対策は対策となっていなかった。
(根源的な原因)
①水面計の取付位置は?->見易い場所に設置されていたか?
構造的and/or 場所的に直ぐに汚れやすい状況では無かったか?
②緊急遮断装置は整備し易い場所に設置されていたか?
③緊急遮断装置の構造に関して乗組員にシッカリ説明をしていたか?
④緊急遮断装置の作動試験を実施する時間的な余裕はあったか?
⚫️(事例2)Ballast Tank Man Hole Coverの閉鎖忘れ(Duck Keel Spaceに浸水)
機関事故では無いが、筆者が機関長として乗船していた際に経験した甲板部の事故であり、乗組員の一人としてこの事故を防げなかった当事者として熟知たる思いがある事から取り上げた。
(一義的な原因)
①担当者(Chief Officer)の確認ミス(Ballast Pumpを起動する前に閉鎖確認するのは当たり前)
②作業実施のProcedureの確立不十分(Double Check体制の不備)
(再発防止対策)
乗組員の過失(確認ミス)として処理され、事故事例を周知しての注意喚起、Double Checkの必要性、これを確実にするためのCheck Listの作成を指示した。
(根源的な原因)
①担当者(Chief Officer)の体調は?
内地港揚地にてC/Oは荷役作業、内地での諸作業をしながら、担当監督とBallast Tank内(本船はCape Size Bulker)に入ってCrack位置を確認する作業を行っていて、殆ど休息も取れない程多忙を極めていた。Ballast Pumpを運転する段階は荷役の終盤であり、Pump Start時には疲れがPeakに達し、集中力が低下しており、Ballast Tank Man Hole Cover閉鎖確認まで気が回らなかったと思われる。
※本船は10日後に入渠工事が予定されており、Ballast Tank Crackの修理を行う必要があった。
②積揚地でのBallas Pump運転時のCheck Listは作成されていたか?
Double Checkも含めて、作業忘れが無い事を確認するCheck Listを会社や本船が作成していたか?
②本船Chief Officerは上位執職であった。
会社での本来の職位は 2nd Officer、本船が初めてのChief Officerでしかも上位執職であった。C/Oに対して会社、本船は十分なSupportをしたか?本人は強い責任感から可成り無理をしていた事が想定される。
どうでしょうか?上記2つの事故の原因はヒューマンエラーなのでしょうか?
表層的な原因での再発防止対策を行っても一時的には事故防止の効果はあるかもしれませんが、暫くするとまた同様な事故が発生してしまいます。事故原因が一義的にヒューマンエラーとされた場合に、何故ヒューマンエラーが惹起したのかの根源的な原因を究明して再発防止対策を立案しないと事故は無くならないと思うのは、筆者だけなのでしょうか?皆さんはどの様に思われますか?
筆者は、乗組員の中で事故を起こそうと思って船を動かしている船員は一人もいないと思っていますので、極端な話、事故原因としてのヒューマンエラーは殆ど無いと思っています(勿論、先にも述べましたが、人間にはポカはありますので、ゼロにはなりませんが)。
最後に事故を起こさない黄金律(筆者だけが思っている)があります。
信じられないかも知れませんが、事故を発生させない方法があるのです。何だと思いますか?
それは、「船に人とお金を掛ける事です。」
LNG船がその証明です。筆者が会社に入社した頃(約50年前)、会社は社運をかけてLNG船の運航を始めました。LNG船の運航を始めるに当たり、会社は乗組員の教育を行い(米国まで勉強の為に出張せしめた)、船の建造にも多額な費用を掛けました。その結果LNG船では今日まで、大規模な海難事故は発生していません。即ち人とお金を掛ければ、その効果はあると言う事です。
しかしながら、その「人とお金を掛けられない」から苦労しているのだとの声が聞こえて来そうですが、LNG船の様に人とお金を掛けても利益が出る様にお客様から必要な運賃を戴ける様な船が出来ればと思います。
※当初LNG船の主機がTurbineであった事もあろうかと思います。
※LNG船の主機もDieselでしかも2元燃料船となり、更にCommodity化して来て、他の船種と変わらなくなって来ているのが心配です。
以上