「米国・イラン紛争の教訓」

2026-7-1

 米国及びイスラエルによるイランへの攻撃が2月28日から始まったが、漸く6月17日に米国・イラン両国が停戦への覚書に署名して停戦合意を目指しての交渉が開始される状況となった。結末がどの様になるのか誰も分からないが、「今回の紛争で分かった事がある」と記述した新聞記事を目にした。その内容が我々船乗りにとって由々しき事柄でありたので、それを皆さんに紹介したいと思います。

 その新聞曰く、ある米シンクタンクの指摘として、
「イランでの戦争の教訓は。ホルムズ海峡を支配して世界経済を危機に陥れる為に、多大な戦力を投入する必要は無いと分かった」と。
 どういう事かというと、「世の中に何らかの不満を持ち、自国の主張を認めさせる為の手段の1つとして戦争の様な武力行使を行うという方法があるが、それには膨大なMan-Powerと費用が掛かり、簡単には出来無い。しかしながら今回のイランが行ったホルムズ海峡封鎖は安価な無人機や無人艇による散発的な攻撃や実際に撒いたかどうかも良く分からない機雷の敷設により、乗組員と船体、積荷の安全を危惧した商船の通行を完全に停止させ、米国を翻弄し、世界経済を混乱に陥れる事が出来た。」とのことのようです。
 これに加えて米国の某大学の研究所が
「ホルムズ海峡は容易に海上交通が阻害され得るチョークポイントの一例に過ぎない」と分析し、他に封鎖の影響が大きい場所として、マラッカ海峡、スエズ運河、パナマ運河、ジブラルタル海峡、バブエルマンデブ海峡などを挙げた。

 実際、過去に影響を受けた事例としては、中東紛争によるスエズ運河の閉鎖、最近の事例として2023年以降パレスチナ自治区ガザへのイスラエル軍の攻撃が始まってから親イランのイエメンの民兵組織フーシ派によるバブエルマンデブ海峡通航船への攻撃による紅海航路の回避行動、更には、チョークポイントとは少し状況は違うが、ソマリア沖の海賊も我々船員にとっては極めて危険に晒される海域となって、色々な対策がなされた事は記憶に新しい事かと思います。
 これらのチョークポイントは、なにもそのポイントに面している沿岸国に限定される事では無く、閉塞の意図を持って世界を混乱に貶めようとする人達が、容易にそれを行える事を意味しています。

 更にその新聞記事には「これから海運業界や安全保障関係者は、この様な世界に点在する海運の要衝が封鎖されるリスクを点検したり、対応策を検討したりする必要がある」と記載されていました。
 しかしながら、我々船乗りは、いつどこでこの様な危険が発生するかも分からない世界の海を生業の場にしており、筆者の考えとしては、民間で行う対策は限度があるので、力は落ちたとは言え、国連と言う立派な組織が厳然として存在しているので世界全体でこの様な世界の要衝を封鎖する様な事が出来ないようにする方策を確立する事と同時に、世界の常識を持った国が連携して世界の安全を守る行動を起こす事が出来ないものなのかと考えます。出来得れば、我が日本国が先頭に立って外交努力により、この様な危険を回避出来る様なSchemeを構築して貰いたいと思っているのは筆者だけでしょうか?我々の仕事は、世界が安全でなければ行えない仕事なのだとつくづく思う次第です。

 最後にその新聞記事の抜粋ですが、マラッカ海峡が閉塞された場合の影響とパナマ運河の現状を記述していましたので、参考に記します。
(参考1)マラッカ海峡
同海峡を通過する原油量は世界最多で、米エネルギー情報局によると、1日約2,320万バレルが通り、2位のホルムズ海峡の約2,090万バレルを上回る(2025年1~6月平均)。ホルムズ海峡は最も狭い部分で幅約30kmだが、マラッカ海峡は幅約3kmしかなく、海上交通の難所としても際立っている。加えて米シンクタンクの研究員は「マラッカ海峡の通航に長期的な混乱が生じれば、ホルムズ海峡封鎖よりも深刻で連鎖的な衝撃を世界経済に与えるだろう」と懸念を示している。
マラッカ海峡を通じて石油などの重要物資を輸入する日本や中国、韓国など東アジアの主要国にも多大な影響が及ぶとみられる。
(参考2)パナマ運河
米中が確執を繰り広げた。トランプ政権は中国の影響力排除を念頭に運河の管理権の奪還を主張。従来、香港系企業が運河の両端にある港を運営していたが、米政権がパナマ政府への圧力を強める中、昨年3月に香港系企業が港の運営権を米企業連合に売却する事で合意した経緯がある。

 今回の国際紛争とは関係ありませんが、筆者の記憶では、2023~2024年に掛けて異常気象で降水量が少なく、渇水状態となってパナマ運河の水位が低下、その結果通航船舶数が制限される事態が発生して、船舶の滞船が発生した事も記憶に新しい事です。

以上
出典:26/6/17 産経新聞