自由海論ービールの泡

2025-10-15

 暑い暑い今年の夏も終わり、北国では秋をすっ飛ばしてもう冬の気配が漂い始めた今日この頃で、ビールの話でもないのですが、暫しお付き合い下さい。

 我々、船乗りとお酒は切っても切れない間柄(こう決めつけるのは良くないと思いながら)だと思います。その中でも特にビールは格別で、Engine Roomの酷暑の中で汗ビッショリになって仕事をした後に飲むビールの何と美味い事か。こう思うのは筆者だけでは無いと思います。何故、ビールが上手いのか?その1つの要因は泡にあるとか?

 その前に、お店で生ビールを注文した際に、自分に出されたGlassのビールが他の人のビールに比べて泡が多く、チョット損した気分になった事はありませんか?この泡が多いと本当に損なのか?実は、その泡の量をめぐって裁判になった事があったそうです。

 戦前の昭和15年、東京上野のビアホールで客の「このビール、泡が多すぎるじゃないか!」という一言から思わぬ大騒動が巻き起り、これが裁判沙汰となって当時の関係者が集まって激論が行われたそうです。議論の的は「泡はビールと認められるのか」という一点で、激論の末、「泡はビールでは無い」との当局の判断が出たとの事でした。しかしながら、この話はこれで終わらず、その後、当時の醸造学の権威であった坂口謹一郎と言う先生が鑑定を依頼され、誰もが予想しなかった驚くべき以下の様な鑑定結果を提示したと言う事です。

  • 泡の部分は液体部分よりもアルコール濃度が高い
  • 泡には液体より多くの糖分や蛋白質が含まれている
  • 泡にはビールの重要な風味成分が凝縮されている

と言う事で、お店側は無罪になったとの事でした。

 ですので、泡が沢山あっても決して損な事は無い様です。しかし、そう言われても矢張り泡が沢山ありすぎると余り良い気分にはなりませんよね。適度な泡の高さは「三対七かせいぜい二対八」と言うのが先程の坂口先生の所見だったと言う事です。

 現在、多くのビールメーカーが推奨している「黄金比率」は。泡3:ビール7。この比率で注がれたビールは見た目も美しく、香りと味わいのバランスも絶妙だとされている様です。

 ビールの泡に関しては、国によってもまた考え方が違う様で、本場のドイツでは泡の量は15~30%と定められており、この範囲を超えると「品質に問題あり」とされる。また英国でもかって「泡の量」めぐる裁判が起き、その結果「泡を売ってはいけない」と言う判決が出され、その結果、英国のパブではグラスいっぱいまで、ビールを注ぐ文化が定着したとの事です。そう言えば、英国でパブに行った際にグラスの上に有った泡を切ってグラスを出された事が微かな記憶に中にあった様な無い良いな。

 話は、日本のビール泡の裁判に戻りますが、この裁判が昭和15年に行われた事を考えて見ると、昭和15年とは太平洋戦争が始まる昭和16年(12月8日)の1年前なのですが、この時代を想像するに世相が暗く、「贅沢は敵だ」(ビールの様なお酒を外で飲む事は贅沢なのではないのかとの筆者の考え)と言われていた時代にこの様な論争が起こっていた事を考えると滑稽と言うか、未だ世の中それなりの余裕があったのかなとチョット安心と言うか、意外な感じもしました。

 ビールが何故うまいのか?その理由に関しての「泡」の効用をお話しようと思って書き始めたのですが、思わずビールの泡の損得の話となってしまいました。「泡」の秘密に関しては、次回とさせて戴きたいと思います。決して泡を食っている訳ではありませんが(最後の落ちは少々無理がありました、すいません)。

以上